医学まめ知識
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異物の話(その1) 咽頭異物(特に餅)に御用心!

 新明解国語辞典によると、異物とは「何かの機会に飲み込む食物以外の物や体内に発生する異常な組織」と定義されている。しかし、私は異物を「そこに在っては成らない物」と解釈しており、食物だって異物になることがある。従って新明解国語辞典の「異物」の定義には、些か抵抗を覚える。まもなく、正月を迎え雑煮など餅を食べる機会が多くなる。そこで用心して欲しいのは餅を咽(のど)に引っかけない様にする事である。特に老人の場合は、嚥下力(食物を飲み下す力)が減弱しているので引っ掛けやすく、時に窒息死する危険すらある。 引っ掛ける部位は舌根(舌の付け根)から喉頭までの長さ約7cm前後の下咽頭であり、下咽頭は食物も空気も共に通過するところである。料理された餅は柔らかでどんな形にもなり得るので、ある大きさより大きい餅は下咽頭にぴったり嵌まり異物となるのである。

 応急処置は指を口の中に入れ嘔吐反射を誘発して吐き出すことである。何といっても予防が大事あり、そのように成らないよう注意すべきある。それは全く簡単で餅の大きさを小さくする、ただそれだけである。花見団子、あの団子を引っ掛けた話は聞いた事がない。それは餅よりも固いせいも在るが、大きくないからである。雑煮の具の王様は餅であろう。その王様が小さくては様になるまい。雑煮の餅は、大きくてもいいが小さくしてから飲み込むことである。御用心!御用心!

 餅ではないが私は「ほや」(ご存知だろうか、三陸の海で採れるあのほや)を咽に引っ掛けた患者を処置したことがある。中年男性5−6人がバーで飲酒し適当に酔いが回った頃、多分そこに酢の物として「ほや」がでていたのであろうか、その中の1人「俺、ほや1つ飲んで見せる」と空威張りし、飲み込んだが下咽頭に引っ掛かり「うぉ。うぉ…」と苦しみ始めた。しかし他の同僚は、それをジェスチャーと勘違いし「○○君頑張れ。○○君もう少し だ」等と囃し立てた。しかし、○○君は元気を失いだんだん萎える姿に同僚は異常に気づき背中を叩いたがどうにもならないので私のところに運びこまれたのであった。直ちに「ほや」を摘出し、意識は半ば失いかけていたので耳鼻科治療用ユニットから吸気に合わせて空気を下咽頭に送り、救命し得た。丸呑みした「ほや」はかなり大きくぶよぶよしており、とても丸呑み出来る代物ではなかった。岩手県での話である。


医学豆知識から 桑島利力