医学まめ知識

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病は気から (その1 病気の中に占める割合)

これから何回かにわたって「心と病」の関係についてお話したいと思います。あらかじめ中公新書から発刊されています池見酉次郎著「心療内科」を参考にしたことをお断りしておきます。池見酉次郎先生は、元、九大心療内科教授で我が国心身医学創設者のお一人であります。

第1回目は心の病によって体の不調を訴える患者さんはどれくらいおられるかということについて話してみましょう。

病気ということば自体、あるいは「病は気から」という諺からもうかがわれるように、人々は昔から「心と病」の関係に気づいてはいました。しかし、今日では生理学的研究や実証的研究など科学的研究の進歩によって、古くから経験的に会得され、また新しくは精神分析などによってさぐり当てられてきた「心と病」の結びつきについての多くの知識に、科学的な裏づけが与えられてきています。科学的な裏づけについてはもう少し後でお話したいと思います。

心の動きが身体に及ぼす影響は沢山ありますし、日常の外来で多くの医師が経験しています。しかし、案外一般の皆さんは気づいていない方が多いように思われます。随分前の報告になりますが、外来を訪れる患者さんの1/3はいわゆる心身症や神経症など何らかの心の病を持っているとの統計がありました。

我が国での心身医学の草分けである九州大学心療内科で行われた調査を紹介してみましょう。それによりますと、なんらかの心臓の症状を訴えたり、あるいは医師の方がその必要を感じたりして、内科の外来で心電図の件差を受けた患者さんの中から、受診の順番に100人だけをとり出して心身両方面からのこまかい検査を行った結果では、心臓神経症が16人、夫人のいわゆる「血の道」が6人、ノイローゼとまでいかない「心配状態」とも称すべきもの2人で、結局、ノイローゼ的な例が24人であった。ちなみにこれら100人の患者のうち72人は、心電図に異常は認められなかったそうです。

次に慢性のはっきりしない胃の症状を訴える160人の患者さんについて、レントゲンや胃の内視鏡検査、必要に応じて胃粘膜の生検(胃の粘膜を一部摘みとって顕微鏡で病変の有無を調べる方法)まで行い、さらに一定の薬による治療や心理療法を行って、約半年経過をみた上で、よく診断した結果、これらのうち本当に胃炎の病変をみとめたのは55%、残りの45%は正常で、その28%は胃神経症であったとの報告もありました。

「鳴かぬ蛍が身を焦がす」と言われるように、感情の正常な吐け口が閉ざされた時、人はさまざまな身体症状を現わすことがあります。日曜ジンマシンに悩むサラリーマン、負債で足の立たなくなった社長、姑との葛藤で腹の膨れる主婦、失恋の痛手から首が廻らなくなった娘等々、いろいろな症状がみられます。

最近では成人病をはじめとする慢性疾患は生活習慣病ともいわれ、日常の行動パターン、性格がそれらの病気の発症や経過に密接な関係があるとされています。さらに心理・社会的ストレスの増大に伴う心身症、神経症、うつ状態と身体症状の発症も複雑化し、心理的問題に対する配慮なしには根本的な治療はできないのが現状であることを考えると一般外来を訪れる患者さんの中で心理的な問題を抱えておられる患者さんが占める割合はさらに増えているものと思われます。

米国の学者の中には、「すべての疾患の少なくとも80%は、心理的な色彩をもっている」あるいは「程度の差こそあれ、ほとんどすべての人が、なんらかの形でノイローゼ的な要因を持ちながら、なんとか切りぬけているのが現状である」といっている人もあります。もしも何かの症状で困っている場合には「頭痛の種」はないのか?悩みを抱え込んでいないかなど、もう一度自分のこと、身の回りのことを振り返ってみてはいかがでしょうか。

医学まめ知識から 岩本憲夫